エキノコックスの話題
3月終盤になり春の気配が感じられるようになってきましたね。
そろそろ動物病院では各種予防シーズンが始まります。
先日セミナーで 「札幌市内で北大附属動物病院でエキノコックスと診断された症例」について視聴しました。
少数例ではありますが、北海道という地域の特性を踏まえて
今回はエキノコックス症についてまとめました。
エキノコックス(多胞条虫)は、国内では北海道で流行する人獣共通感染症です。
最近では愛知県の一部でも定着してきています。
本来はキツネとネズミの間で行き来するところ、犬がネズミを捕食することで感染すると考えられています。
人では年間20人程度の届出があり、無治療だと90%が肝不全で亡くなるのに対し、犬は無症状といわれています。
しかし今回、北大で報告されたケースでは食欲低下や嘔吐、腹鳴などの慢性消化器症状があり、かかりつけ医からの紹介で大学受診となったようです。幸い糞便検査、PCRなどで診断がつき、駆虫によって良好な経過であるとのことです。
大事に至らなかったことは一安心ですね。
犬では感染後1か月程度で虫卵が便中に排泄され始めます。
そこで実際の北海道内での感染リスクがどの程度か、という点でいくつか数字が出ていました。
それによると
・札幌市動物愛護センター収容犬の感染率 1.9% (2018)
・道内農村地域の飼い犬の感染率 7.1%
・多くの飼い主さんは自分の犬がネズミを食べるか?の問いに対し明確に否定できない方が意外と多い(わからないの回答が多い)
→飼い主さんが気づかないうちにネズミを捕食して感染した (2019)
・道外から数日間旅行で来て、数時間リードフリーにしただけでの感染例もある (2006)
札幌市内犬の感染率はおそらく愛護センター犬よりずっと低いのではないかと推測します。
郊外の飼育犬については要注意でしょうか。
もっとも注意すべきは誤食癖の有無ではないかと思います。
「散歩中、何かわからないけど食べちゃった」は以外と多く来院されます。
ネズミなんか食べるはずがない、は思い込みかもしれません。
結論として
アウトドア好き、誤食癖あり、帰省で地方に連れていく習慣、は高リスクと言えます。
人間への感染リスクの観点では上記に該当する方は、犬の症状の有無に関わらず
定期糞便検査・定期駆虫が強く推奨される、ということです。
最近はフィラリア予防薬にエキノコックス駆除効果を持つ製品もあるので、シーズン前に予防薬選択の参考になれば幸いです。